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資本主義の終焉と歴史の危機

水野 和夫(著)「資本主義の終焉と歴史の危機」 (集英社新書)

資本主義の生成、拡大、危機を迎えるに至ったメカニズムを、16世紀以来の世界史的視点と融合させて解き明かした書。
「投資しても利潤の出ない」時代を迎え、「成長」志向は解決策にならないという。
実に幅広い分野を含んだテーマであるが、文章は分かりやすく読みやすい。
ビジネス書として好評であるが、500年に一度の大転換期に生きるすべての人にとっての必読書といえる。

文明の旅

森本 哲郎(著)「文明の旅―歴史の光と影」(新潮社)

初版は1967年、古典に分類してよい本かもしれません。
森本哲郎(1925-)氏が1963年から1965年にかけて、朝日新聞の特派員として旅した世界を、味わい深い文章で綴る名著です。
著者の旅は、アルジェリアのオランから始まり、古代の都バビロン、ヨルダンの赤い都ペトラ、ギリシャ、エジプトを経て、アフリカ、インド、ヨーロッパ各地におよびます。
かつて栄華を極めた地域の多くが、年月とともに変容した姿で著者を迎えます。
サブタイトルの「歴史の光と影」は、かつての繁栄(光)と現在の姿(影)を示しています。
単なる紀行文ではなく、その土地の歴史に思いを巡らせ、文明や人間の営みに対しての深い思索が展開されています。
1960年代といえば、まだ海外旅行もめずらしい時代でした。必然的に、旅への思い入れも深くなります。
著者の新聞社特派員(当時)という肩書から推察されるような、ジャーナリスティックな雰囲気は感じられません。
旅の出来事を伝えながら、過去に思いを馳せ、さまざまな文献を引用し、歴史とは何かを考えさせてくれます。しめくくりはニーチェの引用となっています。
誠実で表現力に富んだ文体を通して、本書が出版された40年前の時代の雰囲気も伝わってきます。
観察、内省、表現・・・精神の豊穣な時代でした。

絶版ですが、オークションや古書店で入手可能です。

(2008年1月30日)

人を動かす

デール・カーネギー (著),山口 博(訳)「人を動かす」(単行本)

デール・カーネギーの著書はこれで3冊目の紹介で、「道は開ける」とともにミリオンセラーを続けている代表作です。

「人を動かす」という書名には、処世術を説くハウ・ツー本のような響きを感じますが、内容はカーネギーの他の著作と同じように、数多くの人間研究から生まれた奥深いものです。ちなみに原題は、”How to Win Friends and Influence People” です。

内容は、人を動かす三原則、人に好かれる六原則、人を説得する十二原則、人を変える九原則という構成になっており、その一部を紹介すると次のようなものです。

「人を動かす三原則」

●原則1 批判も非難もしない。苦情もいわない。

●原則2 率直で、誠実な評価を与える。

・・・

「人に好かれる六原則」

●原則1 誠実な関心を寄せる。

●原則2 笑顔で接する。

・・・

「人を説得する十二原則」

●原則1 議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける。

●原則2 相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない。

●原則3 自分の誤りをただちにこころよく認める。

・・・

「人を変える九原則」

●原則1 まずほめる。

●原則2 遠まわしに注意を与える。

●原則3 まず自分の誤りを話した後、注意を与える。

カーネギーが伝えたかったメッセージは、相手の人間性を尊重し、誠実に相対することがもっとも重要で、その姿勢が人を動かすということでしょう。

巻末には「幸福な家庭を作る七原則」が付されています。

カーネギーの他の著作とともに、座右に置いて読み返したい名著です。

(2007年12月13日)

スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学

G.M.ワインバーグ (著),木村 泉(訳)「スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学」 (単行本)

副題にあるように、技術によるリーダーシップというテーマを中心に、技術者が人間としていかに成長すべきかを語ったものです。原題は”Becoming a Technical Leader : An Organic Problem-Solving Approach”となっています。「スーパーエンジニア」という邦訳にも妙があります。

著者のG.M.ワインバーグは、本人の言葉を借りれば、商用コンピュータの黎明期にIBMシステムのプログラミングの「大名人」だったそうです。

その著者の前に、高速・大容量のハードウェア、二進法さらには十六進法という「新しい教義」や新たなプログラミング言語が出現し、著者の技術的優位性を無にするような事態が訪れます。

このような「谷間を乗りこえて」、いかに成長し生き残ってきたかを自伝的に語りながら、技術者として生きる道を説いています。

著者によれば、大規模なシステム開発の「ほとんど全部が少数の傑出した技術労働者の働きに依存している」ということです。

このような技術リーダーは、旧来のアメとムチ型のリーダー像とは質的に異なるものです。

著者は、いかにすればそのような影響力を持った技術リーダーになれるのか、その秘密を明らかにしていきます。

慣れ親しんだ技術に安住するのではなく、未知の新しい技術の世界へ挑戦することの大切さや、その時感じる痛みや苦しみ、新しい世界に到達したときに感じる、新たな地平線を見いだしたような喜び、さらには技術の第一線からマネジメント領域への移行についても語られています。

各章の最後には、読者に対するいくつかの問いが提示されており、深く考えさせられます。

比喩や逆説を多用したワインバーグ独特の文章で、初めての人にはとっつきにくいかもしれませんが、技術者の人間的成長についての傑出した名著です。

(2007年12月14日)

人間ゲーテ

小栗 浩(著)「人間ゲーテ」(岩波新書)

長年のゲーテ研究の成果として、「人間」としてのゲーテの姿に迫った興味深い著作です。ゲーテの生涯を、様々な作品や女性との関わりを通して活写しています。

著者の言葉を借りれば、「ゲーテが、十八世紀という時代のなかで育まれ、戦い、そして時には妥協しながら、いかに生きるべきかに工夫をこらしていった姿を、私なりに掘り出してみたい」という狙いで書かれたものです。

第一章では、万能の天才と評されるゲーテのような人間が、複雑化・細分化した現代においても存在しうるのかという問題提起がなされます。

第二章では、ゲーテの受けた教育と人格形成の背景や、ゲーテを語る際に忘れてならない様々な女性との恋愛が解説されています。

ファウストの「永遠の女性が我らを引いてゆく」という文章が有名ですが、ゲーテは74歳になっても、17歳の少女に恋をしたという心の若い人物でした。

第三章以降では、官吏でもあったゲーテが革命の時代をいかに生きたのかを紹介し、またファウストなどの代表作を紹介しながら詩人としてのゲーテの魅力を分析しています。

(2007年12月27日)

人生を考えるヒント

木原 武一 (著)「人生を考えるヒント―ニーチェの言葉から」(新潮選書)

「大人のための偉人伝」(No.15で紹介)の木原武一氏が、ニーチェ(1844-1900)の言葉を通じて人生を生きる智慧を語ったものです。

ニーチェの哲学は難解で、ニーチェ自身も激しい頭痛などの持病を抱えて孤独のなかに生きたというイメージがあります。

そのようなニーチェ像は、この本を読むとかなり変わると思います。

著者はニーチェの著作から70以上の箴言を引用し、あわせて他の人物の言葉も紹介しながら、人生をよりよく生きるためのヒントを探っています。

「親切な記憶 ― 人の上に立つ者は、個人のあるとあらゆる美点を心に書き留め、それ以外のことは消すという、親切な記憶を身につけるといい。自分自身についても同様でありたい。『曙光』」(記憶の持ちよう より)

「人間が復讐心から解放されること、これこそ、私にとっては最高の希望への架け橋、長い嵐のあとの虹である。『ツァラトゥストラかく語りき』」(ルサンチマン より)

「隣人を自分自身とおなじように愛するのもいいだろう。だが、何よりもまず自分自身を愛する者となれ。『ツァラトゥストラかく語りき』」(隣人愛よりも大切なこと より)

このようなニーチェの言葉が、木原氏の血の通った解釈によって生き生きと響きます。

(2007年12月17日)

宇宙をつくりだすのは人間の心だ

フランチェスコ・アルベローニ (著),大久保 昭男 (訳)「宇宙をつくりだすのは人間の心だ」(草思社)

イタリアの社会学者・作家のフランチェスコ・アルベローニ(No.5で「借りのある人、貸しのある人」を紹介)の著作です。

本書で取り上げているテーマは、道徳と人間性についてです。

生命のあらゆるレベルに見られる生存競争、適者生存、利己的遺伝子という近代が発見した自然法則と、道徳や利他的な行為の共存が可能なのかという問題を、正面から取り上げています。

戦乱や飢餓などの危機的状況では、利己的に行動するものが生き残るという冷徹な事実の前で、このような自然法則に抗う道徳心について、歴史的・宗教的な議論を紐解きながら多面的に述べています。

このような重いテーマを取り上げていますが、文章に堅苦しさや難解さはなく、流れるような表現(翻訳)で著者の考えが自由に展開されています。

人間性に対する深い洞察と、慈しみを感じさせる文章が著者の特徴です。

「人間の本質、その特徴や能力は、生存に対する適応力でもなければ、闘争力でもなく、まさによりよい人生を夢見ることである。」

(第2章 道徳はどこから生まれるのか より)

著者は、人間性に信頼を寄せていることがわかります。

(2007年11月13日)

人は成熟するにつれて若くなる

ヘルマン ヘッセ (著),フォルカー ミヒェルス (編集),岡田 朝雄(訳)「人は成熟するにつれて若くなる」(草思社)

ヘルマン・ヘッセ(1877-1962)の人生後半期の知恵が凝縮された一冊です。

エッセイと箴言、詩、子息マルティーンの撮影したヘッセの写真から構成されています。

ヘッセの85年の生涯のうち、ほぼ後半生の著作から編纂されたものであり、老境に向かう不安や恐れとともに、老いることにも積極的な意味を見いだす態度が表現されています。

やはりヘッセの文章がすばらしく、翻訳であっても、その世界を十分に味わうことができます。

「四十歳から五十歳までの十年間は、情熱ある人びとにとって、芸術家にとって、常に危機的な十年であり、生活と自分自身とに折り合いをつけることが往々にして困難な不安の時期であり、たび重なる不満が生じてくる時期である。しかし、それからおちついた時期がやってくる。・・・興奮と戦いの時代であった青春時代が美しいと同じように、老いること、成熟することも、その美しさと幸せをもっているのである。」

ヘッセの日常を偲ばせる多くの写真も興味深いものです。畑仕事に精を出す姿や散歩する姿、孫と戯れる姿などが撮影されています。

1947年、ノーベル賞受賞の翌年に撮影されたポートレートは厳しい眼差しをしており、孤高とも感じられる人柄が伝わってきますが、晩年は落ち着いた柔和な表情を見せています。

「全ての詩人の努力の目標は、人生の夕べにヘルマン・ヘッセのような顔を持つことである。」(編者あとがき より)

(2007年11月14日)

生き方の研究

森本 哲郎 (著)「生き方の研究」(PHP文庫)

古今東西の先人の生き方をたどることにより、生き方について深く考えるように促してくれる本です。

本書(PHP文庫)は、新潮選書として「正」(1987年)と「続」(1989年)が刊行されたものを、1冊にまとめ文庫化したものです。

登場するのは、古代ローマ時代のセネカに始まり、陶淵明、与謝蕪村、カント、兼好法師、シュリーマン、アインシュタイン、正岡子規、老子、小野小町、キケロ、石川啄木、白楽天、北斎、孔子など、39人に及びます。実在の人物だけでなく、ロビンソン・クルーソーや坊ちゃんなど、小説の主人公も登場します。

本書の特徴は、「かく生きるべし」という規範的な偉人伝に終わっていないことです。

各章には「人生の短さについて-セネカ」、「よき晩年について-王安石」というようにさまざまなテーマが設けられています。

最初に著者から問題提起がなされ、読み進むうちに著者とともに考えるよう促され、そこに先人が生きた事例として登場するという絶妙の構成になっています。

著者は、カントの三批判書(*1)に挑戦した学生時代や、シュリーマンの発掘の舞台を訪れたときの体験などを思い起こしながら、深く思索を巡らし、「生き方の研究」を展開しています。

血の通った人生論であり、充実した読後感が得られる良書です。

(2007年11月28日)

第三の波

アルビン・トフラー(著),徳岡 孝夫 (訳)「第三の波」 (中公文庫)

社会の構造的変化をダイナミックに捉え、その本質に迫る筆致を得意とするアルビン・トフラー(1928 – )の代表作です。

単行本は1980年の出版ですから、パソコンもインターネットも普及する前の時代です。トフラーの未来予測はどの程度当たったのでしょうか。

トフラーは時代の変革を「波」の概念でとらえ、第一の波は「農業革命」、第二の波は「産業革命」、そして第三の波は「脱産業化」と分類しています。

本書が執筆された当時は、ちょうど第二の波の社会(煙突型産業による大量生産・大量流通・都市の成立・規格化・同時化)から、第三の波の社会への移行期にあり、この変革は歴史上最大のものであると指摘しています。

このような時代変革の影響は、産業・生活・文化芸術など多方面に及びます。

例えば、第二の波の社会の到来によって、多くの聴衆を一ヶ所に集めて音楽を興行する必要が生じたために、大音量のオーケストラが考案されたというように、芸術さえも変革の影響から免れることはできないわけです。

そして、第三の波への移行ではさらに大規模で広範な変化が起こり、波頭がぶつかって砕けるように、旧勢力と新勢力の衝突や混乱が生じていると捉えています。

トフラーが予測した変革の多くは、現実のものとなっています。

「特別な教育を受けた専門家の手を必要としない安くて小型のコンピューターは、やがてタイプライターのように、どこにでも見られる存在になるであろう。」(第14章情報に満ちた環境 より)

またトフラーは、「マス・カスタマイゼーション」や、「生産=消費者(プロシューマー:Producer+Consumer)」という造語を用いて、消費者が製品の企画段階から参加するような、新しい産業の姿を予測していました。

トフラーの描いた未来の多くは現実のものとなりました。

その一方で、トフラーの予測を超えて進行したものもあります。その代表はインターネットでしょう。

WWW(World Wide Web)が登場するのは、「第三の波」から12年後の1992年です。

(2007年11月30日)