メルヒェン

ヘルマン・ヘッセ(著) 高橋 健二 (訳)  (新潮文庫)

ヘッセの創作童話9編がおさめられている。

冒頭の「アウグスツス」は、童話というにはあまりにも深く、重厚でさえある。

誰からも愛されてほしいという願いが叶えられ育った主人公が、愛されることが当たり前と思うようになり、運命が急転、心の変容を経て最後は穏やかな最後を迎える。

優しく穏やかな童話的な描写と、苛烈な運命描写の激しいコントラストもヘッセらしい。

「すべての悩みのかたわらに楽しい笑いが、すべての弔いの鐘とともに子供の歌が、すべての困窮とあさましさのかたわらに、いんぎんさと機知と微笑とが見出されるのを、繰り返し見て、彼はすばらしいことだ、感動的なことだと思った。」(「アウグスツス」 p40)

主人公のアウグスツスという名前からは、ローマ帝国初代の皇帝オクタウィウスが思い浮かぶ。「神聖な」「尊厳な」という意味合いを持ち、本編のテーマに相通ずるものがある。