養老孟子(著)(筑摩eブックス 2023)
2003年からの20年間に自ら著した、単行本未収録のエッセイ集。
まえがきから、惹かれる。
「二十年前の自分はほぼ他人である。考え方の根本は変わっていないが、なにしろ当人がまじめに書いているので、今ならもっと気を抜いて書くところも、気を抜いていない。ただまっしぐらに思いを述べるという点が目立つ。・・・本書はすべて自分で書いている。それには体力が必要である。」
内容というか、思考の対象は、人生、環境、思考、脳・意識、世間、身体、教養と、やはり多様であり、この二十年間の世界の広範に及ぶ。
養老孟子氏の文章には、緻密に論理を積み上げるというより、飛び石を渡るような爽快感がある。
細かい説明で結論に導くことは、氏にいわせれば「ああ、面倒くさい」となるのであろう。
文脈を読み解き、思考の飛躍と思われる文体を読み解くことが、養老孟子氏の文章を楽しむことでもある。
「欲を去ったら、人生の目的がないじゃないか。そのとおりである。だらといって、欲をかいていい。そういう結論にはならない。この『欲をかく」は、欲を欠くではない。・・・欲を欠いたら、たしかに人生は灰色である。しかし欲は中庸でよろしい。理屈が中庸なのではない。中庸なのは欲である。理屈を中庸にすると、理屈が役に立たない。」
(「人は何のために生きるのか」より)