森本 哲郎 (著)「二十世紀を歩く」(新潮選書 1985/10刊)
本書が出版されたのは1985(昭和60)年、二十世紀も残り15年というときです。
二十世紀がどのように幕を閉じるのか、そして二十一世紀がどのように幕を開けるのか、本書は歴史にその手がかりを得ようとした、探求の書であるといってよいでしょう。
森本哲郎氏(1925-)は、二十世紀に起きたおもな出来事や事件を手がかりに、時代の本質に迫ります。
取り上げられているテーマは、知識人による討議(ニース:1935年「現代人の形成」、東京1942年:「近代の超克」)、幻滅に終わったジイドのソヴィエト旅行、フォード主義とアメリカ文明、自動車革命、巨大都市、大衆社会、情報化社会など、広範な分野に及んでいます。
このうち情報化社会の章では、情報社会と情報化社会を区別したうえで、その本質的な問題を指摘します。
情報化社会は、「これまで人間が努力したすえに生みだしてきた知恵を単なる知識のレベルに降格させ、それをさらに単なる情報の次元へと解消させつつあるのだ」。
森本氏が指摘するように、二十世紀を特徴づける最大の事件は、二度の世界大戦と科学・技術の急速な発展であり、それによって人間がすっかり変質したことが二十世紀の本質であると思います。
随所に東西冷戦の影が見え隠れします。
節目の世紀と対峙して、森本氏はじめ多くの知識人が「存続か絶滅か」という切迫した危機感を抱いていたことが伝わってきます。
(2008年2月28日)