風景との対話

東山魁夷(著)「風景との対話」(新潮選書)
日本画壇の巨匠、東山魁夷氏(1908-1999)の自叙伝です。
ブックカバーには、「私の制作と旅の生活を通じて、心の内奥の世界の遍歴を記録したのが、この書である」と記されています。 風景画家を志しながら、戦争による混乱や度重なる家庭の不幸に見舞われ、なかなか画壇に認められない頃の心の葛藤や、幼少時のさまざまな思い出とともに、「道」など代表的な作品の制作過程が、縒り合わさるように綴られています。 またドイツ、オーストリア、北欧、中国などの取材を綴った文章は、紀行文としても興味深く読むことができます。 全編から著者の絵画に対する真摯な態度、繊細な感受性、穏やかな人柄が伝わってきます。 八ヶ岳の美ヶ原高原に、厳冬期を生き延びて芒が細く立っている姿を発見したときのエピソードには、著者の人生観というべきものが語られています。 「やがて、再び春が廻ってくる。さて、あの芒は-雪が降ってきた時は、だんだん下から積って、そのまま倒れずにいるうちに、しまいには、すっぽりと雪の中に蔽いかくされてしまう。雪がとけると、頭のほうから出て来て、こうして春に残るのである。私はこの弱々しいものの、運命に逆わないで耐えている姿に感動した。」 氏の作品には、淡い色彩の中にどこか理想主義的な輝きを感じさせるものと、重い色彩の中に心の内に秘められた葛藤や苦悩を感じさせるものがあります。 多くの作品がどのような制作意図をもって描かれたのかを知ることができ、作品を鑑賞する楽しみも深まります。
(2007/08/06)

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