鳥と語る夢

串田 孫一 (著) 「鳥と語る夢」
名エッセイストとして知られる串田 孫一氏(1915-2005)の随想集です。
氏は哲学者、詩人、登山家の顔を持ち、大学教授を退官後は著述に専念し、膨大な著作を残しました。
本書は、PHPなど様々な雑誌に発表された短編を中心にまとめられたものです。
どの文章も簡潔な表現の中に独自の世界が展開され、一行読むたびに深い余韻が残ります。
豊富な語彙の中から、これしかないと思われる語彙が慎重に選ばれることにより、絵画を鑑賞するような鮮やかなイメージが浮かび上がります。
例えば次の一文
「陽は北の海までたっぷりと頬照る顔をのぞかせている。此処も今は自然の仕組の大らかな回転に、長閑な夏の旋律を感じはじめている。 ・・・(中略)・・・ 岬は海をより広く見るために残された地点である。そこに立って地球を眺め、何かを祈る場所でもある。 雲が消え、波が鎮まって、迷いも去る。 そして明るい空に親しさを覚えながら、宇宙の意図までも全身に滲み渡る。」 (「憂念去る」より)
一語一語をゆっくり味わうように読むと、著者の文体の魅力がわかると思います。
日本語の持つ豊穣さを感じさせる本です。
夏の静かな高原のような爽やかな読後感が残ります。
(2007/07)