ヘルマン ヘッセ (著),フォルカー ミヒェルス(編集)「わが心の故郷 アルプス南麓の村 」(草思社)
本書は、ヘッセが人生の後半を過ごしたスイス南部のテッスィーン地方への思いを綴ったもので、エッセイ、詩、スケッチ画が収められています。
スイスのテッスィーン地方は、イタリア国境に近いアルプス南麓に位置し、ヨーロッパ有数のリゾート地として知られたところです。
ドイツでの第一次大戦への反戦活動の挫折、経済的な困難等で消耗したヘッセは、家族を置いて風光明媚なテッスィーンに移住し、著述に専念する生活に戻ります。
美しい風景に囲まれて、詩人という本来の自己のあり方を取り戻すことによって、ヘッセの精神は癒され、再び生産的になって作品を生みだして行きます。
ヘッセがこの地に移住したのは1919年でしたが、その後1962年に亡くなるまでの40年以上をここで過ごすことになります。
「晩夏は一日また一日とあふれるばかりの 心地よい暖かさを贈ってくれる ・・・ ・・・ 私たち老人は 果樹垣に沿ってとり入れをし 日に焼けた褐色の手をあたためる 昼がまだ笑っている まだ終わりにはならない 今日とここがまだ私たちを引き止め よろこばす」 (「晩夏」より)
自分らしく生きられる永住の地を見つけ、落ち着いた心で後半生を過ごしている充実感や喜びが、作品から伝わってきます。
詩人に限らず、終の棲家とはこうありたいものです。
ヘルマン・ヘッセ(1877-1962)・・・ドイツ生まれの詩人、文学者。1946年にノーベル文学賞を受賞。詳しくはHermann Hesse Portal(日本語) http://www.hermann-hesse.de/jp/index.htm。
(2007/8)