小原 信 (著) 「ファンタジーの発想」(新潮選書)
よく知られた5つの名作を解説しながら、ファンタジーの大切さと心の豊さを教えてくれる本です。
紹介されている物語は、「星の王子さま」、「モモ」、「はてしない物語」、「銀河鉄道の夜」、「ライオンと魔女ナルニア国ものがたり」の5つです(私は第2章「時を心に刻む-M・エンデ『モモ』」が特に気に入りました)。
倫理学者である著者が本書で伝えようとした願いは、つぎのとおりです(*1)。
・人間の人間らしさを、大人としての自分がみつけ出すこと。
・大人としての自分が失ってきたものが何だったのかを知って出直すこと。
・自分の自分らしさや思い出を回復すること。
・いま生きているじっさいの世界が、色とりどりのひろがりをもった多重構造になっていることを見直すこと。
・かつて自分が読んで感銘を受けたことを心にとどめてたえず考え直していくこと。
それぞれの物語を読んで著者が感じたことを語りかけながら、現代人が見失ってしまったものは何かを問いかけます。
「自分の求めているものが、いまここにすべてある、というかたちで生きられる人はいない。いつも求道心とかあこがれのこころをもって、かしこには空気が澄み、われわれのこころもそのように澄みわたるのだろうという予感をもって、いまの生活を耐えながら生きていく。」(*2)
「感動する人は感動できる人であり、恋をする人は恋のできる人である。われわれが善意や愛を知ることから、それをじっさいに生きることまでにはわずかだが大きなギャップがあり、それを乗りこえていくことは、現実の世界にファンタジーを見ることからはじまる。」(*3)
引用が長くなりましたが、やさしく語りかけるような文章のなかに、深く豊かな倫理学の世界が広がります。
(*1)(*2)(*3)・・・いずれも「はじめに」より抜粋