J・K・ガルブレイス (著),鈴木 哲太郎 (訳)「ゆたかな社会」
ガルブレイスの代表作で、初版は1958年と、もはや古典の域に達した著作です。
私の手元にあるのは第三版(四刷)で、1983年発行のものです。久しぶりに箱から出したら、表紙を包んでいるパラフィン紙がすっかり褪色していました。
購入したのは大学を卒業して社会に出た頃です。なぜこの本を読もうと思ったのかは定かではありませんが、社会で働くようになり考えることがあったのかもしれません。
ガルブレイスは序論のなかで、本書の執筆の動機を語っています。
「私は、われわれが、公的サービスをおろそかにし、生産増加の一般的な治療的な力にこれほどまでの信頼を寄せることによって、深刻な社会的な病をおびきよせているのだ、という確信に貫かれてきた」
この本は、ガルブレイスが第二次対戦前後に傾倒したケインズ主義から、彼自身を引き離す努力の結実ともいえます。
ガルブレイスが取り上げたテーマは、「ゆたかな社会」の背後に厳然として存在する「貧困」の問題です。当初彼が考えていたタイトルは「なぜ人々は貧しいのか」というものでした。
多くの経済学者がいわば放置してきた「貧困」を、ガルブレイスは看過できなかったのです。
内容は多岐に渡りますが、経済学の専門書としては比較的読みやすいほうです。第二章「通年というもの」がやや抽象的で、独特の言い回しを理解するのに骨が折れますが、ここを突破すればあとは比較的楽しんで読めると思います。
昨今の流行語となった格差社会を考えるうえでも、多くの示唆を与えてくれます。
現在入手しやすいのは、2006年刊の「ゆたかな社会 決定版」 (岩波現代文庫)です。