父の威厳 数学者の意地

藤原 正彦(著)「父の威厳 数学者の意地」 (新潮文庫1997/06)

藤原正彦(1943-)氏のエッセイ66編を文庫にまとめたものです。
2~3ページの短編が多く、話題は家族にまつわるものが中心となっています。

作家である父、新田次郎(1912-1980)と、母、藤原てい(1918-)の思い出、祖父の教え、妻と3人の子息との日常などが、藤原氏独特の躍動感ある文章で展開されており、飽きさせません。

最近のベストセラーとなった「国家の品格」で主張されている情緒の重視や武士道精神,
恥の文化といったテーマは、本書でも何度か説かれており、著者の一貫した信念であることがわかります。

そしてこのような信念や行動規範は、「藤原家伝来」のものであることが、父や祖父のエピソードから伝わってきます。

藤原氏の文章の魅力は、次の一文でも窺い知れるでしょう。

「買い物の愉しさは、無味乾燥な紙幣が、魅力いっぱいの品物に化けることにつきる。ほとんどドラマティックな変容である。汚ならしいお札を差出せば、欲する物は何でももらえるうえ、感謝までされる。これは純然たる力の行使であり、優越感であり、快感でもある。」(p87 買い物の愉しさ より)

自己の単純明解さの自覚と主張、時代の雰囲気への反抗、一方で繊細な感受性と情緒の表現など、氏の多様な人間性の魅力が文章から溢れています。