鷲巣 力 (著) 「書く力 加藤周一の名文に学ぶ」 (集英社新書 – 2022/10/17)
加藤周一について多くの書を著している鷲巣力氏による、加藤周一の文体論であり読書入門ともいうべき書。
入試問題の定番で、難解・論理的と一般的に思われている加藤周一の文章だが、鷲巣氏はその構造や特徴を引用しながら具体的に解き明かしていく。
具体から抽象へあるいは部分から全体へという構造による組み立て、比較対象による主題の明確化、「、(読点)」や「-(ダーシ)」といった記号を明確な意図のもとに使っていること、など、いままで何となく読んでいた加藤周一の文体の特徴が分析されている。
加藤周一の文章が、決してわかりにくいものではなく、むしろ「いかにしたら読者に伝わるか」を極限まで考え抜いたうえで書かれたものであることがわかる。
名著「羊の歌」は、これらの緻密な組み立てに加え、繊細な五感で感じ取った詩情性の高さにより、長年読み継がれているのであろう。