地獄は克服できる

ヘルマン ヘッセ (著), フォルカー ミヒェルス (編),岡田 朝雄(訳)「地獄は克服できる」 (単行本 2001/01刊)

ヘッセの著作は3冊目の紹介となります(No.22「わが心の故郷 アルプス南麓の村 」、No.79「人は成熟するにつれて若くなる」)。この書も同じ編者・訳者による詩文集で、草思社から発行されています。

文豪ヘッセに似つかわしくないタイトルですが、これは次の文章からの引用です。

「地獄を目がけて突進しなさい。地獄は克服できるのです」(p119「断章11 1933年頃」)

ヘッセの人生は(特に40歳頃までの前半生は)、悩み、挫折、社会の無理解や敵意に苦しめられたものであったことはよく知られています。
本書はヘッセ自身が悩みと苦しみのなかで、何を考え、どのようにして心の平安を見出そうとしたのか、その苦闘の記録といってもよいでしょう。

全体的に重く深刻な文章が多くなっていますが、老年のヘッセが時おり見せる穏やかな表情と、ある達観に救われる気がします。

ヘッセほどではないにしろ、取り越し苦労が多い私のような人間は、次の文章に大いに考えさせられました。

「彼の生涯が、ひとつの高い山脈の尾根から見渡せる。森や谷間や村などのある一帯の土地のように、彼の眼前に広がっていた。何もかも申し分なかったのであった。素朴で、よいものであった。そして何もかもが彼の不安のせいで、彼の抵抗のせいで、苦痛と葛藤に、悲嘆と悲惨の身の毛もよだつ狂乱と危機に化したのであった!」

老年のヘッセは、穏やかでよい表情をしています。運命に歩調を合わせて生きることによって、地獄を克服する術を身に付けたのかもしれません。

(2008年3月12日)