モモ

ミヒャエル・エンデ(著),大島 かおり 訳 岩波書店

見知らぬ街の円形劇場の廃墟に、ある日突然あらわれた「モモ」という名の少女を通して、「時間どろぼう」に支配された現代社会の余裕のなさ、味気なさと、そこから生きた時間を取り戻す姿を描いた物語である。

モモがやってきてからは、モモがそこにいて、黙って話を聞いてくれるだけで、人々は争いをやめ、幸せになってゆく。

しばらくして「灰色の男」があらわれ、時間を節約し「貯蓄」することを勧める。この「時間どろぼう」は人々から時間を盗んで、「時間貯蓄銀行」の金庫に仕舞い込む。
少しずつ時間を奪われた人々は、余裕を失い、街もすさんでいく。

その後モモの活躍により「時間の花」が取り戻されるが、止まった時間が再び動き出す瞬間の描写が素晴らしい。

「その瞬間に、時間はふたたびよみがえり、あらゆるものがまた動き出しました。
車は走り出し、交通整理のおまわりさんは笛を鳴らし、ハトは飛び、電柱の根元の子犬はオシッコをしました。」


エンデは、そもそも時間とは何か、時間を節約することにばかりとらわれ、失ったものはないか、そういう厳しい問いを投げかける。

そして、ただ話を聞いてあげることで自分の時間を相手に与えるということの価値に気づかされる。

穏やかに流れる「とき」の豊かさと心地よさが伝わってくる本である。