ラッセル 幸福論

バートランド・ラッセル(著) 安藤貞雄訳 岩波文庫

イギリスの哲学者・数学者のバートランド・ラッセル(1872―1970)による幸福論。

世界三大幸福論の一つで、他の二つはフランスの哲学者アランの『幸福論』とスイスの哲学者カール・ヒルティの『幸福論』である。

1930年の出版で、原題は”The Conquest of Happiness”ー「幸福の獲得」と訳されるが、conquestという語には征服や克服といった意味もある。

はしがきで、本著は「自身の経験と観察によって確かめられた」常識を述べたものであるという。

大きく2部に分かれ、第1部は、過度の競争、他者と自分を比べること、幼時に植え付けられた堅い規範意識などの、幸福を妨げる要因について具体的に述べられており、思い当たる節が多い。

「真っ先になすべきことは、幸福は望ましいものだ、ということを納得することである」
(第1章 何が人びとを不幸にするか より)

「本を読むには二つの動機がある。ひとつは、それを楽しむこと、もうひとつは、そのことを自慢できることだ。」
(第3章 闘争 より)

第2部は、熱意、愛情、仕事、努力とあきらめなど、幸福を獲得するための方法について述べられている。

「たくさんの人びとを自発的に、努力しないで好きになれることは、あるいは個人の幸福のあらゆる源のうちで最大のものであるかもしれない。」
(第10章 幸福はそれでも可能か より)

「人間、関心を寄せるものが多ければ多いほど、ますます幸福になるチャンスが多くなり、また、ますます運命に左右されることが少なくなる」
(第11章 熱意 より)

「十分な活力と熱意のある人は、不幸に見舞われるごとに、人生と世界に対する新しい興味を見いだすことによって、あらゆる不幸を乗り越えていくだろう。」
(第15章 私心のない興味 より)

自己の内面を覗き込むよりも、外界に興味を持つことが幸福への道と説くが、その根底には、イギリス人の伝統的な考え方特徴である経験論や、常識があると感じられる。

ラッセルは、「ラッセル・アインシュタイン宣言」で核廃絶を訴えた平和活動家で、大学を追われ投獄された経験もある。
そうした状況に置かれても、幸福になる可能性を探求した人柄は、彼のまなざしからも窺える。

出典:岩波文庫 ラッセル幸福論