若き数学者のアメリカ

藤原正彦(著)「若き数学者のアメリカ」(新潮文庫)

ベストセラーとなった「国家の品格」の著者の初期の作品。日本エッセイストクラブ賞を受賞しています。
1972年、数学研究の留学生としてアメリカに招かれた著者は、気負いと不安を抱えながらハワイに降り立ち、ラスベガスで散財し、ミシガン大学に乗り込みます。アメリカ社会の中で様々な人々と出会ううちに、当初抱いていた敵愾心や「アメリカには涙の堆積がない」という印象から、「一瞬のうちにアメリカに恋をしてしまった」へと変化してゆく心の軌跡が、臨場感にあふれた文体で展開されています。またアメリカ社会に潜む問題点についても、深い考察が行われています。
今では海外旅行者数が1600万人(*1)を超え、海外留学者数も約8万人(*2)という現在では、アメリカに限らず外国で過ごし異文化と接触するということは、特別なことではなくなったようです
しかし、ガイドブックに紹介された有名観光地に行き、記念写真を撮り、土産を買って帰るだけでは、単に旅行商品を消費するだけの旅ではないでしょうか。留学にしても語学研修だけが目的では寂しいものです。
まったく違う言葉と習慣、文化の中で過ごすことは個人の意識に何らかの影響を与えるはずです。
著者の留学した時代と現代では環境が大きく変わっていますが、外国で暮らすということを、個人の内にある日本的なものと異文化の衝突ととらえ、自分自身と自分の国を見直すきっかけにしたいものです。
「若き数学者のアメリカ」の単行本が出版されたのは1977年ですが、その後文庫本が1981年に発売され現在も入手可能です。
著者独自の躍動感と瑞々しさにあふれた内容で、夏休みの読書に最適です。また「遥かなるケンブリッジ 一数学者のイギリス 」もあり、こちらも合わせ読むと面白いでしょう。

(*1)社団法人日本旅行業協会の資料(日本人出国者数)。ちなみに著者が留学した1972年は139万人でした。
(*2)日本人の海外留学者数。ユネスコ文化統計年鑑。
(2007年7月20日)

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です