フランチェスコ・アルベローニ (著),大久保 昭男 (訳)「宇宙をつくりだすのは人間の心だ」(草思社)
イタリアの社会学者・作家のフランチェスコ・アルベローニ(No.5で「借りのある人、貸しのある人」を紹介)の著作です。
本書で取り上げているテーマは、道徳と人間性についてです。
生命のあらゆるレベルに見られる生存競争、適者生存、利己的遺伝子という近代が発見した自然法則と、道徳や利他的な行為の共存が可能なのかという問題を、正面から取り上げています。
戦乱や飢餓などの危機的状況では、利己的に行動するものが生き残るという冷徹な事実の前で、このような自然法則に抗う道徳心について、歴史的・宗教的な議論を紐解きながら多面的に述べています。
このような重いテーマを取り上げていますが、文章に堅苦しさや難解さはなく、流れるような表現(翻訳)で著者の考えが自由に展開されています。
人間性に対する深い洞察と、慈しみを感じさせる文章が著者の特徴です。
「人間の本質、その特徴や能力は、生存に対する適応力でもなければ、闘争力でもなく、まさによりよい人生を夢見ることである。」
(第2章 道徳はどこから生まれるのか より)
著者は、人間性に信頼を寄せていることがわかります。
(2007年11月13日)