スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学

G.M.ワインバーグ (著),木村 泉(訳)「スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学」 (単行本)

副題にあるように、技術によるリーダーシップというテーマを中心に、技術者が人間としていかに成長すべきかを語ったものです。原題は”Becoming a Technical Leader : An Organic Problem-Solving Approach”となっています。「スーパーエンジニア」という邦訳にも妙があります。

著者のG.M.ワインバーグは、本人の言葉を借りれば、商用コンピュータの黎明期にIBMシステムのプログラミングの「大名人」だったそうです。
その著者の前に、高速・大容量のハードウェア、二進法さらには十六進法という「新しい教義」や新たなプログラミング言語が出現し、著者の技術的優位性を無にするような事態が訪れます。

このような「谷間を乗りこえて」、いかに成長し生き残ってきたかを自伝的に語りながら、技術者として生きる道を説いています。

著者によれば、大規模なシステム開発の「ほとんど全部が少数の傑出した技術労働者の働きに依存している」ということです。
このような技術リーダーは、旧来のアメとムチ型のリーダー像とは質的に異なるものです。
著者は、いかにすればそのような影響力を持った技術リーダーになれるのか、その秘密を明らかにしていきます。

慣れ親しんだ技術に安住するのではなく、未知の新しい技術の世界へ挑戦することの大切さや、その時感じる痛みや苦しみ、新しい世界に到達したときに感じる、新たな地平線を見いだしたような喜び、さらには技術の第一線からマネジメント領域への移行についても語られています。

各章の最後には、読者に対するいくつかの問いが提示されており、深く考えさせられます。
比喩や逆説を多用したワインバーグ独特の文章で、初めての人にはとっつきにくいかもしれませんが、技術者の人間的成長についての傑出した名著です。

「くる年もまたくる年も、無言の苦しみのうちに、
彼のつややかな渦巻きは広がった。
・・・
もっと壮麗な舘を築くがよい、心よ、
季節はすばやく通りすぎるのだから。
過去の低い屋根から抜け出るがよい!
・・・」
第四章 リーダーはどう育つか より
(オリバー・ウエンデル・ホームズ 「おうむ貝」)

(2007年12月14日)