加藤 周一(著) 「高原好日―20世紀の思い出から」 (信濃毎日新聞社 2004/07)
評論家加藤周一(1919-)氏が、軽井沢や追分村など浅間山麓を舞台に、人々との交遊を綴った随筆集で、信濃毎日新聞の連載を単行本化したものです。
登場するのは70人、堀辰雄、福永武彦、中村真一郎、野上弥生子、伊藤整などの文人をはじめ、磯崎新、武満徹、丸山真男、池田満寿夫など、文化・芸術・学問の幅広い世界に渡っています。
また、一茶、佐久間象山、巴御前など、歴史上の人物との架空の問答もあります。
加藤氏の追分村の思い出は、少年時代に夏休みを家族で過ごす習慣から始まり、著書「羊の歌」でも美しく回想されています。
氏は、追分や浅間高原への思いを、次のように綴っています。
「故郷とは感覚的=知的な参照基準としての空間である。私にとっての浅間高原は、生涯を通じてそこへたち帰ることをやめなかった地点であり、そこに『心を残す』ことなしにはたち去ることのなかった故郷でもあるだろう」(前口上より)
論理と情緒が融合した、加藤氏の文章の魅力が感じられると思います。
(2008年6月 5日)