企業戦略論【中】

J・B・バーニー(著),岡田正大(訳)「企業戦略論【中】事業戦略編 競争優位の構築と持続」 (単行本 2003/12刊)

No.127で紹介した バーニーのMBAテキスト「企業戦略論」3巻構成の中巻は、垂直統合、コスト・リーダーシップ、製品差別、柔軟性、暗黙的談合の5つの章から構成されています。
競争優位性の主要課題であるコスト・リーダーシップと製品差別化の方法については、ポーターの「競争の理論」の解説だけではなく、脅威や機会、組織構造と関係づけて、体系的・網羅的に扱われています。
第6章「垂直統合」では、バリューチェーンにおける垂直統合の価値、取引費用理論に基づく統治の選択肢、そしてリソース・ベースの視点から見た垂直統合戦略が説明されています。
企業の垂直統合度が、売上高付加価値率を示す簡単な式でおおよその見当がつくというのはひとつの発見でした。
また、「一般的人的資本投資」(*1)という概念にも共感を覚えました。
第7章「コスト・リーダーシップ」では、規模の経済、経験の差がもたらす学習曲線による経済性、技術上の優位などコストリーダーシップをもたらす要因と、こうした競争優位を最大化するための組織体制について解説されています。
「競合を下回る価格を設定すれば、競合に対してさらなるコスト削減が可能であるというシグナルを送ることになる。」(p89)という指摘にも納得させられます。
安易な低価格戦略は、レッド・オーシャンへの道ですね。
第8章「製品差別化」では、ポーターの「競争の戦略」から製品差別化を行う方法が紹介され、また実証研究から導き出された差別化要素、経営組織との関係、バランス・スコアカードについても触れられています。
「製品差別化とは、最終的には、常に顧客の認知の問題である」(p113-114)という指摘は、肝に銘じるべき言葉です。
第9章「柔軟性」では、戦略の選択における不確実性の問題が扱われ、金融オプション理論に基づくリアルオプション理論の手法が説明されています。
難解な数式を3つのステップに分解し、わかりやすく説明する手法には、ティーチング・アウォードを5回受賞したバーニーの神髄があらわれています(それでもすらすらとは読めない部分でした)。
最後の第10章「暗黙的談合」では、協調問題と裏切りについて解説されています。

(*1)general human capital investments・・・blogを書くこともそうですね。

[新版]企業戦略論【中】事業戦略編 戦略経営と競争優位 (単行本 – 2021/12/8)

ゲーテ格言集

ゲーテ (著) 高橋 健二 (訳) 新潮文庫

ゲーテ(1749-1832)の智慧を凝縮した一冊です。
初版の1952年から現在でも版を重ねており、学生時代に購入した文庫本は1973(昭和48)年発行のもので、その後処分されることもなく現在も書棚の片隅に納まっています。
当時は就寝前にページをめくってわかったような気がして読んでいましたが、おそらく地上から星を眺めているようなものだったと思います。
内容は、「ファウスト」や「若きウェルテルの悩み」、「詩と真実」、エッカーマンの「ゲーテとの対話」、その他多くの著作から格言や箴言を集めたもので、次の分類にしたがって纏められています。
「愛と女性について」、「人間と人間性について」、「科学、自然、二元性について」、「神、信仰、運命について」 、「行動について」、「芸術と文学について」、「幸福について」、「自我と自由と節度について」、「個人と社会について」、「人生について」、「経験の教え」、「人生の憂鬱」、「身辺雑記」、「生活の知恵」
ゲーテを特徴付けているのは、このような知的領域の幅広さがそのまま彼の人生になっていることです。
詩人・文学者、自然科学者にして、政治にも携わるなど、様々な分野で大きな業績を残しており、万能の天才という評価もあります(1)。

また、積極的な活動を促したかと思うと、一方では沈思することも勧めており、多様性に富んだ思想の持ち主であることがわかります。

ゲーテの生きた時代は、フランス革命とナポレオンがヨーロッパを席巻した激動の時代であり、社会・文化においても大きな転換期でした。 この時代を生きた人々が、心理的にも大きな混乱のなかにあったことは想像に難くありません。

現代はゲーテの生きた時代と同様の、あるいはそれ以上の大きな変革の渦中にあります。日々の生活に翻弄され人生の全体像を見失ったとき、ゲーテの格言はいくつかの道を示してくれます。 心に残る言葉が見つかることと思います。

(1)ゲーテの伝記は多々ありますが、小栗 浩 (著)「人間ゲーテ(岩波新書)」は、幼少時の教育、女性とのかかわり、代表作ファウストなどについて生き生きと描写されており、読みやすくお薦めできます。

高橋 健二(訳)「ゲーテ格言集」新潮文庫

二十世紀から何を学ぶか(下)

寺島実郎 (著)「二十世紀から何を学ぶか(下)一九〇〇年への旅 アメリカの世紀、アジアの自尊」(新潮選書)

「二十世紀から何を学ぶか(上) 欧州と出会った若き日本」の続編で、さまざまな人物を軸にして、二十世紀のアメリカ、アジア、日本の関わりを描いた「歴史エッセイ」です。
冒頭で、本書の執筆動機と著者の歴史認識に対する基本的な態度が表明されています。
「漠然としたイメージや受け身の情報に基づいて歴史を受け止めるのではなく、『実事求是』の精神で、自らの足と眼を使って、歴史の現場に立ち、文献と資料によって事実を確認し、『自分にとっての二十世紀の総括』を試みたものである」(はじめに より)
今回登場するのは、クラーク博士、ヘンリー・ルース、フランクリン・ルーズベルト、マッカサー、新渡戸稲造、内村鑑三、鈴木大拙、津田梅子、野口英世、ガンディー、孫文、魯迅、周恩来など、多彩な人物です。これらの人物が二十世紀をいかに生き、歴史にどのような影響を及ぼしたのか、興味深く綴られています。
歴史を前にすれば、個人の存在や影響力はたかが知れているように思われます。
しかし、これらの人々の果たした役割の大きさを知ると、決して個人は無力ではないという感慨が湧いてきます。
テレビ番組などで解説者として活躍する寺島氏は、その誠実な姿勢、論理的で説得力がありしかも分かりやすい論評が印象的ですが、本書からも同じような読後感を覚えます。
そして、基礎的な資料を自分の目で十分に読み込み、自分の頭でよく考えたうえで、話したり書いたりする態度が重要であることを教えてくれます。
上巻では巻末に膨大な参考文献リストが付いていましたが、下巻ではWebで公開する形となっています(http://www.shinchosha.co.jp/book/603582/)。今回もその膨大さに圧倒されます。

二十世紀から何を学ぶか〈下〉一九〇〇年への旅アメリカの世紀、アジアの自尊 (新潮選書  単行本 – 2007/5/1)

二十世紀から何を学ぶか(上)

寺島 実郎 (著) 「二十世紀から何を学ぶか(上) 一九〇〇年への旅 欧州と出会った若き日本」

著者の寺島実郎氏は日本総合研究所理事長で、テレビや新聞に度々登場し、国際的な視点から経済、政治、環境問題等を、鋭く説得力のある言葉で論じています。
本書は20世紀の始まった年、1900年前後に欧州に渡った日本人が、何を考え、その後いかに行動したかを確認することにより、日本人にとって20世紀という時代の持つ意味を考察しようというものです。
登場する人物は、海軍軍人秋山真之から始まり、夏目漱石、西園寺公望、川上音二郎、クーデンホーフ(青山)光子、広瀬武夫、森鴎外、三井物産創業者益田孝と多彩な顔ぶれです。
情報化社会のはるか以前の話であり、ほとんど予備知識らしいものを持たずに日本を出国し、欧州の実態に直面することになります。
時代と格闘するという言葉がありますが、1900年当時の欧州と日本との違い(格差)を考えると、登場人物たちが如何に大きな衝撃を受けたかが想像されます。
そしてこの時の経験が、その後の思考や行動に大きな影響を与えることとなります。
彼らの多くは政府や財界の指導者層であったがゆえに、帰国後は他の日本人に直接・間接的な影響を及ぼすこととなります。
著者は、これらの人物と比べ現代の日本人には「考える」姿勢が欠けているのではないかということを指摘しています。
夏目漱石の日記の一文が引用されていますが、背筋が正される思いがします。
「未来は如何あるべきか。自ら得意になる勿れ。自ら棄る勿れ。黙々として牛の如くせよ。孜々として鶏の如くせよ。内を虚にして大呼する勿れ。真面目に考へよ。誠実に語れ。摯実に行へ。汝の現今に播く種はやがて汝の収むべき未来となつて現はるべし」(一九〇一年三月二十一日付)

二十世紀から何を学ぶか〈上〉一九〇〇年への旅 欧州と出会った若き日本 (新潮選書) 単行本 – 2007/5/1

ゆたかな社会

J・K・ガルブレイス (著),鈴木 哲太郎 (訳)「ゆたかな社会」

ガルブレイスの代表作で、初版は1958年と、もはや古典の域に達した著作です。
私の手元にあるのは第三版(四刷)で、1983年発行のものです。久しぶりに箱から出したら、表紙を包んでいるパラフィン紙がすっかり褪色していました。
購入したのは大学を卒業して社会に出た頃です。なぜこの本を読もうと思ったのかは定かではありませんが、社会で働くようになり考えることがあったのかもしれません。
ガルブレイスは序論のなかで、本書の執筆の動機を語っています。
「私は、われわれが、公的サービスをおろそかにし、生産増加の一般的な治療的な力にこれほどまでの信頼を寄せることによって、深刻な社会的な病をおびきよせているのだ、という確信に貫かれてきた」
この本は、ガルブレイスが第二次対戦前後に傾倒したケインズ主義から、彼自身を引き離す努力の結実ともいえます。
ガルブレイスが取り上げたテーマは、「ゆたかな社会」の背後に厳然として存在する「貧困」の問題です。当初彼が考えていたタイトルは「なぜ人々は貧しいのか」というものでした。
多くの経済学者がいわば放置してきた「貧困」を、ガルブレイスは看過できなかったのです。
内容は多岐に渡りますが、経済学の専門書としては比較的読みやすいほうです。第二章「通年というもの」がやや抽象的で、独特の言い回しを理解するのに骨が折れますが、ここを突破すればあとは比較的楽しんで読めると思います。
昨今の流行語となった格差社会を考えるうえでも、多くの示唆を与えてくれます。
現在入手しやすいのは、2006年刊の「ゆたかな社会 決定版」 (岩波現代文庫)です。

ザ・テクニカルライティング

高橋 昭男 (著)「ザ・テクニカルライティング―ビジネス・技術文章を書くためのツール」


出版されたのは1993年とやや古いものの、正しいビジネス文章・技術文章を書くための実践的で非常に役に立つ本です。
著者は「もっと良い日本語を書きたいという一心で」いろいろな文献を読み漁り、200万字に及ぶデータベースとして整理したとのことです。その資料を活かして生まれたのがこの本です。
内容はきわめて具体的、かつ実践的です。
・「技術文章では正確さと品位を必要条件とし、わかりやすさ、読みやすさを十分条件とする。」(技術文章の四大要素 より)
・「1文50文字以内に収める」(短い文章を書く より)
・「5時にならないと帰って来ません」というような、二重否定の文章は避ける(明確な文章に徹する より)
・「箇条書きの文章には、句点(。)を付けない。」(もっとスリムに より)
・「推定の文章はマニュアルでは使えない。」(日本語の特徴を活かす より)
他にも、形容詞や助詞の正しい使い方、同音/同訓語の使い分け、読点の付け方などについても、具体例をあげて詳細に説明されています。
報告書や日報、企画書やプレゼンテーション資料、電子メールなど、ビジネス文章を書くことは、仕事のなかでも大きな位置を占めています。
また製品のマニュアルなどは、誤解を生む記述があれば大きな問題を引き起こす恐れがあります。
このようにビジネス文章を書く機会は非常に多いのに、そのための体系的な教育を受けた覚えのある人はほとんどいないのではないでしょうか。。
一冊備えておいて時折目を通すだけでも、文章の品質が向上すると思います。

ザ・テクニカルライティング―ビジネス・技術文章を書くためのツール( 共立出版 単行本 – 1993/5/20)

話し方入門

D.カーネギー(著),市野 安雄(訳)「話し方入門」

自己啓発本としてあまりにも有名な「道は開ける」、「人を動かす」の著者であるデール・カーネギーの原点ともいうべき著作です。
話し方教室の講師であったカーネギーは1926年に”Public Speaking and Influencing Men in Business”を著していますが、それを編纂し直したものが本書です。
カーネギーは、良い話し手になるための秘訣として次のような要素をあげています。
・勇気と自身を養うこと
・周到に準備すること
・有名演説家に学ぶこと
・わかりやすく話す
・聴衆に興味を起こさせる
・言葉づかいを改善する
他にも、態度と人柄について、スピーチの始め方・終わり方などについて、具体的にどのように行動すればよいのかが説かれています。
「自分の個性を最大限生かしたいと思うなら、しっかり休養してから聴衆の前に現れましょう。疲れた話し手には人を引きつける力も魅力もありません。」(第7章 話し手の態度と人柄 より)
本書でカーネギーが述べている内容は、ほとんどそのまま現代でも通用するものです。
プレゼンテーションにおいても、「話し方」が聞き手に最も大きな印象を与えます。
話し方を学ぶことに抵抗を感じる人が多いようですが、ひとつの技術、技能として学びたいものです。

新ネットワーク思考

アルバート・ラズロ・バラバシ(著),青木 薫 (訳)「新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く」

副題にあるように、「ネットワーク」によって世の中の様々な事象を説明しようという新しい理論を紹介した本です。
「ネットワークは、ウェブ上の民主主義からインターネットの脆弱さ、そして恐るべきウィルスの広がりまで、さまざまな問題を理解するための新しい枠組みなのである。(序より」)」
著者は物理学者で、インターネットの構造を研究しているうちに、さまざまなネットワークに共通する仕組みを発見したことで注目されています。
例えば「六次の隔たり(六次元モデル)」という概念があり、6人の知り合いを順にたどってゆけば世界中の誰にでも辿り着けるということがいわれていましたが、インターネットの世界を調査してみたところ、19ほどのリンクをたどることにより、あらゆるサイトに到達できるという、いわば「19次の隔たり」構造をしているのことがわかったのです。
このようなコンピュータ・ネットワークに似た「ハブとリンク」構造で、世の中の事象の多くが説明できるということです。
本書はトポロジーの考え方や成長するネットワークなど、新しい分野の科学を解説する本ですが、身近な例を取り上げなるべくわかりやすく説明しようという姿勢が感じられます。
本書を読めば、インターネットに限らず成功者がますます成功するような仕組みが、ネットワーク構造に由来するものであることがわかると思います。
また、著者らが研究を進めるうちに徐々に核心に迫っていくような展開がなされており、ネットワーク研究のドキュメンタリーとしても興味深く読むことができます。

新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く (単行本 – 2002/12/26)

宇宙からの帰還

立花隆が、アメリカ人宇宙飛行士たちに膨大な時間をかけ、相手の真意をくみ取ることに注力したインタビューをおこない、説得力と臨場感にあふれた文章としてまとめたものである。

大気圏外から地球を眺める、月まで往って還ってくる、宇宙遊泳をするといった体験が、その後のものの見方や考え方、人生観、宗教観、哲学などに大きな影響を与えたことがわかる。

大半の宇宙飛行士は、宇宙から眺める地球の信じられない美しさに感嘆するとともに、「模範的・典型的な」アメリカ人であるためか、宇宙に神的なものの存在を感じたという体験が多い。

最終章で登場するラッセル・シュワイカートは、神的なものは特に感じなかったという。そのかわり、地球がひとつの生命体であることを確信したという。ちょうど人間の体内にさまざまな他の生命体が宿っているように、地球もさまざまな生命体から構成されたひとつの有機体であるという知見は新鮮である。

「癒す心、治る力―自発的治癒とはなにか」

アンドルー・ワイル(著),上野 圭一(訳) 「癒す心、治る力―自発的治癒とはなにか」 (角川書店)
西洋医学以外の代替医療全般と、自発的治癒について解説した啓蒙的な本で、世界的なベストセラーになりました。
内容は、治癒系の仕組み、こころが治癒に果たす役割、治癒系を最大限に活かす方法、様々な代替医療による治癒の事例、病気になったときの治療法の選びかた等です。
多くの事例の中で、オステオパシー医のフルフォード博士(*1)に多くのページが割かれています。
フルフォード博士との出会いが、著者にとって代替医療全般への転機となっています。
オステオパシーでは、出生時の呼吸やその後の外傷等によって頭蓋骨や仙骨の動きが制約されていることが様々な病気の原因であると考え、その制約を緩めるため手技による治療を行うということです。
著者がフルフォード博士から学んだのは、
・「からだは健康になりたがっている」
・「治癒は自然の力である」
・「からだはひとつの全体であり、すべての部分はひとつにつながっている」
・「こころとからだは分離できない」
・「治癒家の信念が患者の治癒力に大きく影響する」 といったことです。
なお、著者のアンドルー・ワイルはハーバード大学医学校を卒業した医学博士であり、現代医学を否定しているわけではありません。 治癒系の仕組みの項では、DNAレベルや酵素による修復メカニズムが詳しく説明されています。
また、緊急を要する症状の場合は現代医学(救命救急治療)が最良の選択であることも強調されています。
本書で紹介されている様々な代替医療に素人判断で飛びつくのではなく、こころの果たす役割に注目したいと思います。 つまり「こころの転換が、治癒の扉を開けるマスターキーなのかもしれない。」ということです。
(*1)「いのちの輝き―フルフォード博士が語る自然治癒力」の著書があります。